偏愛と日常を届けるインタビューメディア「aboutalk」、今回はご自身のブログで、「本とあなたのポートレート」という企画を連載されているでクロギタロウさんに、本が好きになったきっかけや、撮っておきの1冊を取材する理由などをお伺いしました。
–クロギタロウ
宮崎県出身、兵庫県姫路市在住、書漂家。会社員として働きながら、兵庫県加古川市の地域メディアでライターをしたり、個人ブログ「Books だらり庵」を書いたりとインターネット上でも活動するマルチプレイヤー。
「人生に寄り添う1冊を楽しむ人の様子を写真に残したい」という気持ちから、ブログで連載企画「ホントレート」を始める。
ツイッター…(@taroimo0629)
ブログ…https://tarokuro.hatenablog.com/
Booksだらり庵…https://darari.page/
ホントレート・撮っておきの1冊・書漂家
–クロギタロウさんのツイッターやブログには聞きなれない単語が並ぶ、ホントレートとは一体どんな活動なのだろうか
ホントレートというのは、「本」+「ポートレート」の造語です。「本とあなたのポートレート」を略して「ホントレート」と呼んでいます。
取材させてくださる相手の「人生に寄り添う1冊を楽しむ様子を写真に残したい」がテーマなんですよね。その1冊のことを「撮っておきの1冊」と言っています。
そうやって自分が作ったオリジナルの単語を残していくことで、「これは自分が始めた活動なんだ」と認識できるので、遊び心もありつつ、こういった呼び方をしています。
取材対象は、本好きとは限らない
–ホントレートはどんな方を対象として取材をされているのだろう
本が好きかどうかはあまり関係ないですね。普段は本を読まない人にも取材しています。その方が面白い話を聞くことができるんですよ。
だって、「本を読まない人」の思い出に残る本ですよ。それだけ深く刺さっているということなんですよね。
本の虫と言われるくらい本を読む人もいれば、スイッチが入ったら読書に没頭する人、読み方もいろんなタイプがあるんです。ずっと本に触れている人のほうが少ないですね。
例えば〇〇のプロはどうなんだろう
今のところ、友人や知り合いにインタビューをしているんですけど、そのバリエーションを増やしていきたい。
例えば、プロはどんな本が”撮っておきの1冊”になるんだろう、なんて考えたりもします。
大工さんや職人さんって頑固な面もあるじゃないですか。そんな人たちが大切にしている1冊って、仕事の本なのか。
案外、自分の仕事とは結び付いていないものが大切な1冊になったりするんじゃないかなって。
その人、その人に大切な本があるんですよね。
だから人がいる限り、本は残り続ける。
本屋さんは頑張って本を残そうと取り組んでいるんです。それを現場で頑張る人がいれば、その取り組みを記録する人も必要なんじゃないか。
僕は写真が好きだし、本も好きだから。記録する役に回ったほうがいいな、と思いました。
この企画も初めは人にフォーカスしていなかったんですよね。本屋さんを紹介したり、本そのものを紹介したりしていたんですよ。
電子書籍、紙の本
–本屋さんの話が出てきたところで、よく言われるであろうことを、不躾ながら質問してみた
僕は紙の本が好きですね。電子書籍を否定するわけではないし、サイズや可搬性を考えれば電子書籍なんですが。
紙の本ってストーリーがそこに残るんですよ。
先日、ホントレートの企画で話をしているときでも、破れた絵本を持ってきてくださった方がいたんです。
その破れてしまったところ、セロテープで修復したところを見ると、当時のことを思い出したりなんかして。
これは電子書籍では難しいところですよね。その人に寄り添った1冊になるには、やっぱり紙の書籍がいいんですよ。
とはいえ、それに固執するのもよくないかなと思い、ガジェット好きな友人たちにもホントレートの取材をすることにしました。
新しいもの好きの彼らが、どんな気持ちで本と接しているのか、楽しみなんですよ。
本屋さんに行こう
紙の本だから、というわけではないんですが、とにかく皆さんに本屋さんに行って欲しいんです。
インターネットでは、ワンクリックで本が注文でき、早ければ当日に届けてくれるような、そんなサービスもありますよね。
でも、本屋さんで新しい本に出合ってほしい。そんな思いも込めて、ホントレートをやっています。
欲しい本が決まっていたとして、それが奥の棚に置いてあるとき。その場所に行くまでに、いろんな本の表紙を見ることになる。
思わず手を伸ばしてしまう本があるかもしれません。「おっ!」となるような、新しい本との出会いを大切にしたいんですよね。
僕が小さいころ、月に1回、家族で夕食を食べにに出かけた帰りです。帰る途中、本屋さんなら寄り道してくれるんです。
夜の高揚感や非日常な気分で本屋さんに行けるんです。そのころから本屋さんが好きだったみたいです。
今はどんどん本屋さんが閉まっていってる、そんな現状を少しでも何とかしたいんですよね。
京極夏彦先生の本に出会う
僕は朝から晩まで本を読んでいるようなタイプではなかったんです。
中学2年生のときの誕生日に小説をプレゼントしてもらったんです。それが京極夏彦先生の「続巷説百物語」でした。
今まで読んでいた本とは違うインパクトがあったんですよね。本の中に、明らかに世界がある。緻密な描写なんですよ。
小説だと「行間を読むのが大切だ」なんて言われたりしますが京極先生の本はそうじゃない。頭の中に綺麗な世界を描けるくらい、物事の一つ一つが丁寧に書かれているんです。
「行間を読め」と言われても、例えば江戸時代を題材にした小説だとどうしても曖昧になってしまう。江戸時代の知識も無ければ、その時代に生きていたわけでもない。
そういった曖昧な箇所をしっかり補完してくれる文章になっているのが京極先生なんです。知った気分になっていたことが、順番に訂正されていくんですよね。
また、電子書籍、紙の本に通じるところもあるんですが、本のレイアウトまで考えて文章が書かれていて。どこで改行するか、ページの最後はどこか。本を開いたそのページの漢字とひらがなのバランス、文字の散らばり具合。
細部まで考えられた文章になっているんです。文庫本でも立つことが有名なくらいボリュームがあるんですが、それだけ丁寧に書かれている小説なんですよ。
世界は言葉でできている
–ご自身で小説を書かれた経験もあるクロギタロウさんが気付いたこととは
知らないことを経験したい。そんな気持ちもあって小説を書いたこともあります。小説を書くってこんなに大変なことなのか。そのおかげで、本にもう一歩近づくことができましたよ。
それからは、作家の先生方に対する意識も変わりました。
世の中で「面白くない」と言われる小説があるなら、それは楽しみ方を知らないだけ。本を1冊書くって、どれだけ大変なことなのか、一度経験するのも悪くないですよ。それがミニコラムだとしても、色んな人の手がかかって記事になる。自分でやってみて気付いたところですね。
大好きな山尾悠子先生の作品に出てくる一文が好きなんです。
誰かが私に言ったのだ 世界は言葉でできていると
山尾 悠子 著 夢の遠近法
自分自身のボキャブラリーって、読んできたものや、知っている言葉しかないんです。辞書からどの言葉を選ぶかも、その人のセンスなんです。
自分が一生の中で1回も発しない言葉だってあります。知らない言葉だってたくさんある。それに出会わせてくれるのは「本」なんですよね。
本に書かれていることって、自分では経験できないことばかり。
知らないことが載っていたとき調べる人もいれば、スルーしてしまう人もいる。
本を読むことって、人の話を聞くことと似ているんですよ。
どっちも自分の中から出てくるものじゃなくて、与えてもらうもの。
だから人と会って、人の話を聞くのが好きなんでしょうね。
本を通じて、もっと多くの方に話を聞きたいと思っています。
インタビューを終えて
心に残った本を通じて、ご自身の思い出や出来事を振り返る時間として楽しんでもらえたら。そんな「ホントレート」は、偏愛と日常にフォーカスする当メディアとも似たところがあるのかもしれません。
ホントレートの取材を受けた皆さんが手元に用意したその1冊は、他の本よりも思い入れが強く、大事なパートナーだったことでしょう。その本が歩んできたストーリーこそが、ホントレートの醍醐味ではないでしょうか。
本棚をじっくり眺めてみると、当時の思い出が蘇ってきます。あの時に買った本、頼りにしていた本。そんな思い出が溢れる中で選ぶとしたら。あなたの”撮っておきの1冊”はどの本ですか?
クロギタロウ
ツイッター…(@taroimo0629)
ブログ…https://tarokuro.hatenablog.com/
Booksだらり庵…https://darari.page/
写真協力…クロギタロウさん(@taroimo0629)、しゅんさんぽさん(@shunsanpo)
取材・文…スズキヒデノリ(@acogale)
[aboutalk編集部]